いわゆる35mmフォーマットの生みの親はライカ社。ゆえに「ライカ判」と呼ばれるのですが、そのライカ社が遂にフルサイズセンサーを積んだデジタルカメラを創り上げました。しかもM型ライカで。一眼レフと違い、極端にフランジバックの短いM型ライカでフルサイズセンサーを積むのは相当に技術的ハードルは高かったと想像できます。これを成し得ただけでも賞賛に値すると個人的に感じますが、画のほうもさすがライカ社と唸る超高画質。思わず「ライカ判の再定義だ!」なんて戯れ言を書きたくなってしまいます。ライカユーザーにとって50mmといえば最もなじみ深いレンズだと思いますが、その50mmを「素」で覗ける幸せ。時に広角的にも、時に望遠的にも使える奥深い画角を持つがゆえに標準と呼ばれる50mmレンズ。いいモノ感漂うボディに標準レンズ一本。ある種そんな「潔さ」を決心させてくれるデジタルカメラは希有な存在でしょう。
LEICA M8/M8.2に引き続いて、M9にはローパスフィルターが搭載されません。一般的なイメージセンサーにはこのローパスフィルターが搭載されます。センサーの機構上、被写体の非常に細かく入り組んだ部位に偽色やモアレが発生するため、ローパスフィルターにてそれを軽減するのが目的です。しかし良いことばかりではなくシャープネスが犠牲になってしまうのです。そのためハイエンドの35mmデジタル一眼レフは非常に高価なローパスフィルターを搭載していますが、それでもローパスレスのデジタルカメラに比べればピント部分でも"緩い"と感じてしまい、またデジタル特有の眠い画になりがちです。M8/M8.2/M9では偽色やモアレをソフト的に低減していますが、筆者がM8を使ってきた経験上、極めてテクニカルな撮影と結果が求められるプロユースでなければ、殆ど気になることはないと個人的に感じます。また、ハイエンドの中判デジタルバック等でもローパスフィルターは一般的に搭載されていません。高画素化が進むことによって解像限界も飛躍的に向上し、ローパスフィルターで得られる恩恵よりも、ローパスレスによる比類無きシャープネスのメリットのほうが大きいのです。高画質であることはもちろん、写真として見たときにどうなのか。ライカ社にとってはローパスレスというのは必然的な選択だったのでしょう。
画質を追求すればどうしてもレンズやボディのサイズは肥大化します。機材の重さはある種のテンションを与えてくれますが、重さがそのまま「重さ」になってしまえば持ち歩けなくなってしまいます。いつだって持ち歩けて、呼吸するようにシャッターを切れるなら、それに越したことはありません。M9は私たちが手にできるであろうデジタルカメラの中でも最高峰の画質をこのコンパクトボディで提供してくれます。さらにクラフトマンシップ溢れる、いい物感漂う佇まい。ややもすると撮りもしないのに持ち歩きたくなる愛おしさです。一眼レフに比べてレンジファインダー機は被写体に寄れるのも70cm程度だったり、ファインダー視野率が低かったりと不便な面はありますが、原点的、不便だからこそ写真を撮るという行為を根源的に考えさせられるのです。そこそこに撮り込んできて、自分の写真にコンプレックスを感じたり、限界を感じてしまったり。そんな時にこそ、このカメラを手にするというのは一つのカンフル剤になるかと思います。また、できる限りカメラに頼らずゼロベースから写真という道をトレースしたい人にもおすすめです。もちろんライカに憧れる人が、その憧れだけで突っ走っても幸せになること請け合い。とにもかくにも、一度手にしてみてください。
テカリ過ぎず、マット過ぎず。今回のブラックペイントもデキが佳いです。使い込んで真鍮が覗いて・・・自分のモノにしてください。
ライカ
M9 [ブラックペイント ボディ]
シルバークロームを出さずに新色を出す。格好良くなければ出るはずがないですよね。文句なしの格好良さ。スチールグレー。
ライカ
M9 [スチールグレーペイント ボディ]
シ
ャッター設定なる項目で「標準」「静音チャージ」「分離チャージ」「分離静音」なるメニューが。一応どれも試してみましたが、外でスナップしてる分には何だかよく分かりません。分離チャージというのはM8(ファームアップ)/M8.2でも存在していました。シャッターを切って、チャージはシャッターボタンを放すと行われるというものです。ファームアップ無しのデフォルト状態のM8でも十分静かに感じていた筆者には猫に小判? ちなみに、「静音チャージ」「分離静音」ではシャッター半押しが無い(?)のかAEロックができませんでした。短い時間での試写でしたので自信を持って言えないのですが。。。チャージを分離してしまうと、シャッターボタンを放してからチャージされるもので、AEで撮影してるとスローシャッターを切ったような感じがして手ぶれを連想し気持ち悪く、結局デフォルトでずっと撮影しました。静かさを求められるシーンにはよいのでしょうね。
M8に比べてモニターのコントラストが若干強い気がします。この個体だけかもしれませんし、設定が何やらあるのかも。時間があれば厳密に比べてみたのですが。
ISOボタンが背面に新設され、ISO80への減感やISO400などM8には無かった感度が選択できるようになりました。感度を変更するにはISOボタンを押しながら右側のダイヤルを回す仕組みですが、ボタンを押しながらでなくてもよい気がします。
M8/M8.2では軍艦部に小さな液晶があり、撮影可能枚数とバッテリー残量が確認できたのですが、M9では背面のINFOボタンを押すことで確認することに。M8/M8.2になれてしまっている人は一瞬戸惑うでしょうし不便を感じるかもしれませんね。
発表間もなく機材繰りの関係上、今回実質の撮影時間は3-4時間という非常に短い時間でのテストでした。ライカカメラジャパン社様、本当にありがとうございました。貸し出していただいたレンズでの撮影で手一杯で本当は色々なオールドレンズ等を試したかったのですが実現できず残念です。さて、シャッターが壊れるほどM8を使ってきた経験とあわせて、M9というカメラのインプレッションをまとめたいと思います。まず、フルサイズ化により「周辺は本当に写るのか?」という疑問ですが、結論としては超広角レンズをつけて撮影しても全く問題ありませんでした。フルサイズ化にともなって、何か特別に破綻があらわれるといったことはなく、オールドを含め、6bitコードが振られてないレンズでも極端なレンズ構成でない限り普通に使えるのではと想像します。なお作例は全て6BITコードが振られた最新レンズではあります。スーパーアンギュロンなどの後玉が突出したレンズでどのような描写になるのかは・・・すいません期待を裏切って試せませんでした。CONTAX・GシリーズのホロゴンをMマウントに改造したレンズを持っているため一瞬取り付けようかと考えましたが(汗)、無理を申し上げてお貸し出しいただいたボディにそんな暴挙を・・と踏みとどまり、これまた期待に応えられず大変申し訳ございません。
高画素化に伴うダイナミックレンジの変化やノイズ等については、双方共にM8/M8.2よりよくなっている印象を受け、それは階調についても同様です。M8の画を最初に見たときほどのインパクトはありませんが、それは筆者の基礎体験によるもので、よくよく見ればローパスレスの圧倒的な解像感は相変わらずで実にシャープ。ダイナミックレンジ/階調の良さと、シャープネス、高画素化による純粋な解像限界の拡大により、さらに一つ次元が上がった印象です。今回レンズ前のUV/IRフィルターを必要としなくなりました。実際に赤被り等は無くなり、使い勝手の面も向上しています。バッテリーライフについては、M8と同等程度といった印象です。
価格帯としてはハイエンド35mmデジタル一眼レフカメラと並ぶカメラですが、画質的にはそれらを凌駕するポテンシャルを持ちます。必然的に単焦点レンズを用いることになり、ボディのポテンシャルと合わせて非常に高い次元の画質を得られるカメラです。さらに非常に趣味性に富み所有感満たされるカメラでもあり、画質至上主義の皆さんを納得させ、かつ持つ喜びをも与えてくれるカメラだといえます。さらには取り付けられるレンズは純正オールド/現行・サードパーティと数限りなく、システムの発展性の面で見ても類を見ないカメラとも言えます(沼にはまると非常にキケンですが)。
使い古された技術と機構に、写真を撮る上で最低限のサポート。
いつだってこのカメラを使う主役は「撮り手」です。何処かのキャッチコピーの如く「何も足さない、何も引かない」。写真というものに向き合いたい人、自分自身に向き合いたい人にぜひおすすめしたい。写真を撮るということは少なからず「見る」という行為に繋がります。目前に拡がる光景に、「見る」に最低限必要なカメラを持って、自分自身そのもので対峙する。その積み重ねが、将来の一枚に繋がっていくのかもしれません。ぜひこの世界を経験してみてください。
※M9については、今後もレンズ作例など充実させていく予定です。お楽しみに。
※関連情報 「写真で見るM9」もあわせてご覧ください。