今、その瞬間のクリエイティブ(写欲)に。RICOH GR-DIGITAL3

写真はカメラがなければ生まれない。いつも手にカメラを。

構図も大事、ピントも大事。そもそものアプローチも大事。撮り手の"人間力"が引きこむ力を決めるかもしれない。しかし最も大事なことは「シャッターを切る」という事実。何を見るにしても感じるにしても、いつだって目前の光景をフレームに収めて結像させることが自己表現の手段。「撮り手」とはそういうものです。他人に見せることが前提でなかったとしても、いつか引き出される記憶の手段として「写真」という枠組みを利用する。そんな人にとって、いつでも持ち歩け、手にすることができるカメラは大事な存在。何のためでもない、シャッターを切るということが大事なのですから。

画質的にはベストではないのかもしれない

GR DIGITALの価格帯は、デジタル一眼レフのローエンドとバッティングします。天と地ほど違うセンサーサイズ。当然ノイズ面ではデジタル一眼に対して不利であるし、豊富な交換レンズなど存在せず、28mm相当の単焦点レンズを備えるのみ。しかしバッティングするのは価格面だけであり、そもそも「主戦場」が違うのです。フレーミングには足を使い、手ブレ対策にはカメラのホールディングの術を磨くしかない。28mm相当の画角は、目前の光景をほぼ全て複写してしまう。つまり誰が撮っても同じ写真となりやすい。そんな中で自分なりのフレームを見いだしていく。並べただけでも随分内省を迫られるカメラです。デジタル時代になりモニターの等倍表示で画質の粗を重箱の隅のように突く傾向が見受けられますが、写真にとって、写真を撮るということにとって大事なことは何でしょう。

2代マイナーチェンジを繰り返した感が強い。実質はフルモデルチェンジ。

何かしら目新しさがなければ、私たち消費者は些細な変化に気がつかないようにすり込まれてしまっているかもしれません。GR DIGITALⅢは一見何も変わらない。しかし先々代・先代のときに詰め込めなかったであろうことが詰め込まれ、次元が見事に一つ上がっています。マイナーチェンジというよりもフルモデルチェンジに近い。姿形は大きく変わらず、そして操作系を保たれた生まれ変わりなのです。・・・買いたい人に買って欲しい。そして自分自身が持つクリエイティビティの火を絶やしたくない人の手元にあって欲しい。そんな風に思えるカメラなのです。


なぜだかわかりませんが「デジタルはやっぱねー」なんてゴタクを並べるプロカメラマンの所有率が非常に高いカメラ。本当に何故なんでしょう。姿形はあまり変わらずとも、キッチリ進化してきました。

リコー GR DIGITALⅢ / 関連商品

RICOH GR DIGITALⅢ 1/2000,F2.8,ISO64,DNGで撮影、Adobe Lightroom2.4で傾き補正・トーンカーブ操作後現像、縮小時シャープネス処理
夏の終わりの高さが出てきた空と、どことなく寂しげな伸びやかさが抜群に優秀な広角レンズで上手く再現されています。
RICOH GR DIGITALⅢ 1/2000,F1.9,ISO64,DNGで撮影、Adobe Lightroom2.4でストレート現像、縮小時シャープネス処理、Adobe Photoshop CS3にてレベル補正
絞り開放で撮影。F1.9という明るさから後ろボケの量が結構あり、コンパクトデジタルカメラにしては奥行きのある画作りが可能に。
絞り開放でこれだけ周辺まで安定した像を結ぶレンズ性能はかなりのもの。比較的フラットな光線状態ではあるが、均一に揃い滑らかなトーンの表現も非常に好ましい。
RICOH GR DIGITALⅢ 1/640,F5.6,ISO64,JPGで撮影、Adobe Lightroom2.4でモノクロ変換、縮小時シャープネス処理
デジタル画像のモノクロ変換のポイントは、銀塩プリントと同じく、飛ばすべきは飛ばし潰すべきは潰すということになりますが、極端にシャドーが潰れたり、ハイライトとハイエストライトの繋がりが悪い画像だと満足行く結果が得られない。この画像はJPGで撮影したものを後処理でモノクロに変換しましたが、概ねイメージ通りに収まりました。画作りがしっかりしていないと大胆に後処理を行えないのです。この点、歴代のGR DIGITALは概ね優秀ですが、2代目まではやはりハイライト部分の処理に若干不満がありました(それでも優秀ですが)。3代目はさすがにこのあたりのいなし方が巧く感じます。しかしシャープネス処理をしているとはいえ、このナチュラルなシャープ感。レンズがいかに優秀であるかがよくわかります。

GR DIGITALⅢ のトピック

インターネット上に様々な情報がありますので、最も象徴的なトピックをとりまとめてみます。

 

 

 

絞り開放 「F1.9」

センサーサイズから一般的なデジタル一眼レフのように大きなボケ量が得られないため、開放が明るくなったのは何よりのトピックでしょう。またGR DIGITALは代々手ぶれ補正機構を備えてきませんでした。ゆえに開放が明るくなるのは低照度下の撮影で威力を発揮します。これも歓迎すべき事項でしょう。そして何より、開放から使えるレンズであること。ディストーションや諸収差も非常に良く抑えられ、実に気持ちいい描写。

 

また、引き続きワイドコンバーションレンズが用意されます。今回レンズ構成が変わったおかげか、コンバーションレンズも新規のものに(旧バージョン・テレコンバーションレンズGT-1は使えません)。先代のレンズも非常にマッチング良く描写も良好だったので、今回も期待通りの実力を発揮してくれると想像しています。

液晶モニターの美しさ、サイズがアップ

歴代に比べてダントツに液晶表示が美しくなりました。光学ファインダーを持たないコンパクトデジタルカメラにとって、液晶画面は生命線。きちんと視認できる、色々な角度からでも再現性が保たれるなどはもとより、液晶の品質が悪ければ撮影意欲も減退してしまいます。またこの度のモデルチェンジで遂に3.0型のサイズに。フレーミング時にやはり奥行き感が生まれ、フレーム決定のモチベーションに繋がります。さらにsRGB比100%の色再現性。なかなかGR DIGITALらしい進化の仕方です。

 

色々な角度から覗き込んだり、わざわざ意地悪なことを多々やってみましたが、十二分に合格点をあげられる液晶モニターであると言えるでしょう。

 

 


右から初代/2代目/3代目。開放値が明るく、レンズが大型化するのにあわせて、液晶モニターのサイズアップも。しかしボディサイズの拡大は最小限に抑えられています。むしろホールディングしやすくなったのではないでしょうか。


ダイヤルやボタン等の操作系は保たれ、今回液晶モニターに表示されるメニューは大幅にデザインが変わっていますが、操作系は保たれています。GR DIGITALをお使いの方なら何の違和感も無く使いこなせます。このあたりの統一性は素晴らしいの一言です。

 

 


奥左が3代目、奥右が2代目、手前が初代となります。3代目の液晶の大きさが際だちますが、2代目も限られたスペースで目一杯のレイアウトだったことがよくわかります。

動作音に角が無くなった

リコーのデジタルカメラは全般的に元気な(?)動作音がするイメージがあったのですが、3代目は音量も控えめに、かつ、動作音に角がなくなりました。筆者はあまり動作音について気にするほうではないのですが、静かさを求められる方にも満足いただけるのではないでしょうか。

 

細かい変更も

3代ともに背面の操作ボタン類は同一のレイアウトですが、初代は艶消しマット調、2代目は艶あり、3代目は再び艶消しマット調のボタンに変わっています。何か特別な理由があったのでしょうか。

 

仕様変更?シャッター速度最高速について

3代すべてシャッター最高速は1/2000ですが、何故か2代目だけ絞り値に応じて最高速が制限されます。この機材だけなのか、元々このような仕様なのかは当時の情報を覚えていないので何とも言えませんが、3代目は開放が明るいため、マクロ撮影時に積極的に絞りを開けて撮影したいことが結構あり、制限がないのはありがたいのですが、2代目はなぜ??

 

 

 

 

高感度特性について

さて、今回のモデルチェンジでは控えめな画素数にてリリース。全ては画質追求のためと思われますが、高感度特性などにどのような影響があるのか検証してみました。全てノイズリダクション等はOFF。JPG撮りっぱなし縮小のみの画像を掲載します。結論としてはISO400から800程度までは十分に実用範囲内ではないでしょうか。少し前のコンパクトデジタルカメラからすれば格段に良くなった。最後の2枚で、GR DIGITAL /GR DIGITALⅡのISO800の画像を掲載しておきます。参考までにご覧ください。

 

RICOH GR DIGITALⅢ 1秒,F1.9,ISO64,JPGで撮影、Adobe Lightroom2.4で縮小時シャープネス処理
RICOH GR DIGITALⅢ 1/5,F1.9,ISO400,JPGで撮影、Adobe Lightroom2.4で縮小時シャープネス処理
出力内容にもよりますが、まったく実用領域である。
RICOH GR DIGITALⅢ 1/11,F1.9,ISO800,JPGで撮影、Adobe Lightroom2.4で縮小時シャープネス処理
なぜだかカラーバランスが若干変わった。筆者にとっては十分実用領域です。
RICOH GR DIGITALⅢ 1/20,F1.9,ISO1600,JPGで撮影、Adobe Lightroom2.4で縮小時シャープネス処理
なぜだかカラーバランスが若干変わった。かなりノイズが載ってくる。が、人によってはこれでも問題ないでしょう。
RICOH GR DIGITALⅢ 7秒,F5.6,ISO64,JPGで撮影、Adobe Lightroom2.4で縮小時シャープネス処理
長めの露光のサンプル。街灯の「尾」が変な描写になっているが、これは海岸沿いでの撮影の際にミスト状の潮を被った後でのテストだったため。リコーさんごめんなさい。掃除してお返しします。7秒程度の露光ではノイズが載る気配は無い。
RICOH GR DIGITAL ISO800,JPGで撮影、Adobe Lightroom2.4で縮小時シャープネス処理
原寸で見るとかなりノイジーだが、このサイズだと鑑賞に堪えないというほどではない。むしろノイズの粒が銀塩的なもので悪くはないのだ。
RICOH GR DIGITALⅡ ISO800,JPGで撮影、Adobe Lightroom2.4で縮小時シャープネス処理
Ⅲと比べればノイジーですが、こちらも悪くはない。こちらのほうがシャープなように感じるのは単にピント位置の違いによるもの(こちらは無限付近)
こうやって撮り比べてみると、その時その時で本当にベストを尽くしているのだろうなと感じます。

確固たるポリシーとアイデンティティ。チョイスするか、否か




初代GR DIGITALが登場した際、フイルムカメラのGR1Vを引き合いに出されてフイルム派の人々に少なからず批判されました。「GRと名乗るべきでない」と。非常に激しい論調だったが不思議に時間と共に風化していきました。・・・フイルムとデジタルの画の最大の違いは、コントラストの付き方と解像感です。ポジフイルムを使い慣れている人ならおわかりいただけるかと思いますが、実はポジフイルムのコントラストの付き方は非常に激しい。デジタルの場合後処理を自分で行えるのが最大のメリットであり基本的に軟調傾向に仕上げてあります。もう一つは解像感ですが、詳細は割愛しますが、様々な要因が絡んでフイルムに比べると何処と無くぎこちない解像感。つまり不自然に映るわけです。また初代が出た頃のトーンの出方も万全であったとは言い難い。しかし、それはあくまでフイルムと比べての話なのです。デジタル慣れしてきたユーザーと、カメラメーカーの技術もこなれてきて、いまやデジタルVSフイルムといった論争も随分見かけなくなってきました。あの頃は誰もが慣れていなかった。軟調なトーンを締め上げると、思いの外レタッチ耐性の強い画。彩度が低めな画を後処理で仕上げる。使っているうちに、なんとなく意味が分かってきたり。

 

考えてみればフイルム時代のGR1Vから、現在のGR DIGITALⅢまで実はあまり変わってないのです。小さいボディに小さい単焦点レンズ。それがやたらと良く写る。ポケットサイズで持ち運びしやすくて、しかしインスタントカメラなんかとは比べものにならない本格的な撮影に応える機構。全然変わってないのです。もちろんデジタルならではのマルチなアスペクト比選択ができたり色々な機能は載っかってきています。しかし本質は何も変わらない。

 

コンパクトなボディで、よく写るレンズ。ズームは必要なくて、コンパクトでも絞り優先などのモードを備え本格的な撮影に応えてくれる。逆に本格的な「写真撮影」以外の機能は一切必要ない。普通のコンパクトデジタルカメラはイヤだけど、持ち歩きたくなる「いい物感」漂う雰囲気のカメラ。つまり、そんなカメラが欲しい人に、いつも持ち歩きたい人に。そんな人に相変わらず響くカメラなんだと思います。

 

どんなシーンに遭遇しても、カメラを持っていなければ収めることができない。
そんなミニマムな要求に、ミニマムだけれど「いい物」を奢る。「いい物」だから現場で"撮影モード"にスイッチが入る。大事なことです。
いま、その瞬間のクリエイティブに。

 

GR DIGITALⅢの本質は「フルモデルチェンジ」です。設計思想はまるで変わっていませんが。一つ次元が上がりました。また良くなりました。
これまで使っていた人にも、これから欲しいという人にも。唯一無二のカメラをどうぞ。

 

 

 

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