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LEICA S2 実写レビュー

ライカ「S2」は、35mmより大きく645判より小さな撮像素子を載せ、全く新しいシステムとしてリリース。 価格も私たちが見慣れたものと一桁違う。「S2」を理解するためにカメラのシステムとは何かを考えてみる。

いまから約100年前、エルンスト・ライツ社のオスカー・バルナックが
35mm判映画フィルムの2コマ分を使用する小型カメラを試作。これが
皆さんお馴染みの「ライカ判(35mm)」の起源とされます。今日に至る
まで、35mmフィルムを使用するこのシステムは写真の世界の中心に
あったと言えます。時代は移りかわり、35mmフィルムの代わりに撮
像素子とその周辺のデバイスを入れ込んだデジタル一眼レフが登場しま
したが、写真撮影のシステムとして見ればフイルムもデジタルも全く
変わりません。さて、フイルムから撮像素子へと感材の大変更が行われたにも関わらずなぜ同じシステムであり続けることができるのでしょうか。フイルムと撮像素子はまるで違う物なのだから、システムの全体像も変わりそうなものです。

しかし、それではこれまでのフイルムカメラの資産が無用の長物となってしまいます。ユーザーはデジタルを利用するためにシステム全体を刷新する大きな投資を迫られ、これではなかなか市場に普及していきません。売れてこそ新たな技術というのは私たちの生活の中で「当たり前」になり、恩恵に授かれるのです。だからこそデジタルはフイルムカメラというシステムの枠内で製品化されていったのです。では、感材が撮像素子に変わってもシステム自体パッケージングとしてフイルムカメラのシステムを引き継ぐことが相応しいのか。残念ながら現時点ではベストとは言えないでしょう。それでも大きな問題もなく撮影できるのは開発者の皆さんが心血を注いでたゆまぬ努力を積み重ねてこられた結果なのでしょう。

フイルムと違い、撮像素子はできる限り真っ直ぐに光を導くことが望ましい。だとすればシステム 全体を見直す必要が出てくる。そこでライカ社は新しいフォーマット「新ライカ判」を定義した。

レンズを通った光が感材面に到達し、結像する仕組みはフイルムでも撮像素子でも同じですが、問題はその光線の角度なのです。誤解を恐れず書くならば、フイルムはわりと寛容でアバウト。35mmフイルムを使用するカメラは、カメラシステムとしてダウンサイジングを前提として生まれているため、フイルムのこの特性はコンパクト化に貢献。つまり、光線を真っ直ぐに導くならレンズマウントの大口径化やレンズサイズの肥大化は避けられませんが、感材がフイルムであれば皆さんがよくご存じのレンズのサイズにして必要十分なのだと言えるでしょう。しかし、撮像素子にはかなり厳しい光線の角度となり、色々と問題が発生します。詳しい解説は割愛しますが、デジタル一眼レフは35mmより小さな撮像素子とするか、マウント系を拡大しレンズを大きくして光線を真っ直ぐに導きやすいようにするといった、システムの根源に関わる変更を迫られながら、様々な技術と努力の結集でシステム変更を回避、ギリギリのラインで開発されているのです。

 

ライカS2は、これまでフイルムのどのフォーマットにも当てはまらない撮像素子のサイズで、一から起こされたシステムのカメラです。市場には中判カメラを利用してデジタル撮影を実現する「デジタルバック」なるものが存在しますが、根源的に抱える問題は35mmフォーマットのカメラと同様です。デジタルカメラシステムの理想は、撮像素子の特性に則したシステムであり、既存のシステムに撮像素子を突っ込むことではないのです。つまり、デジタルに則したカメラシステムを作り上げることが重要なのです。ライカ社はその理想の作業に取り組み、結果生まれたカメラシステムが「Sシステム」、リリースされたカメラが「S2」なのです。35mmフルサイズデジタル一眼レフとさほど変わらないサイズで、システムを構成する要素を最適化し理想のシステム環境を構築、レンズも構成の特性に従った新設計。約100年前に定義されたフイルムの「ライカ判」。言うなれば、今度は、ライカ社がデジタルカメラへの一つの回答として「新ライカ判」を定義したと言ってよいのではないでしょうか。

 

 

LEICA S2 ,SUMMARIT-S 70mm F2.5 ASPH. , F8 1/500 AWB ISO160 DNG(クリックで原寸拡大)
Capture One Pro 5 , 現像時各パラメータ調整, 撮影地 ニュージーランド Mt.Cook 手持ち空撮

山肌の険しさを忠実に再現。四隅まで全く破綻のない描写。

LEICA S2 , SUMMARIT-S 70mm F2.5 ASPH. , F11 1/125 AWB ISO160 DNG, 手持ち撮影 , 撮影地:ニュージーランド Lake Hoyes(クリックで原寸拡大)
Capture One Pro 5 現像時各パラメータ調整

ぜひ原寸でご覧ください。恐るべき解像力。また解像限界を超えた解像喪失感も非常に自然。うまくコントロールされている印象です。

 

LEICA S2 , SUMMARIT-S 70mm F2.5 ASPH. , F2.5 1/2000 AWB ISO160 DNG, 手持ち撮影 , 撮影地:ニュージーランド Arrowtown(クリックで原寸拡大)
Capture One Pro 5 ストレート現像

赤色の発色が素晴らしい。また画面内かなりの輝度差がありますが、ラチチュードの広さを実感できます。このあたり大きな撮像素子の特権であり面目躍如といった様相。

 

 

LEICA S2 , SUMMARIT-S 70mm F2.5 ASPH. , F2.5 1/4000 AWB ISO160 DNG, 手持ち撮影 , 撮影地:千葉県鹿島市(クリックで原寸拡大)
Capture One Pro 5 現像時各パラメータ調整

AlfaRomeo MiTo。非常に塗装の美しい車で、本来であればバーンと空を飛ばすぐらいハイキー気味に撮影したいのですが、この車の塗装を再現したくてほどほどに。よく再現されています。曇り空でデジタルには優しい光線状態ですが、それでもここまでのトーンはなかなか出ません。絞り開放での撮影で、ボケ味も素直すぎず、立体感が感じられます。

LEICA S2 , SUMMARIT-S 70mm F2.5 ASPH. , F2.5 1/1000 AWB ISO160 DNG, 手持ち撮影(クリックで原寸拡大)
Capture One Pro 5 ストレート現像

こんなカメラでバス車内で撮影とは・・・と思うのですが、35mmフルサイズとなんら使い勝手が変わらないため、光量さえあれば普通に手持ちで撮れてしまいます。絞り開放での撮影ですが、大きな撮像素子を持つカメラがもつ空気感の再現力を意図して撮影。いかがでしょうか。

LEICA S2 , SUMMARIT-S 70mm F2.5 ASPH. , F11 1/500 AWB ISO160 DNG, 手持ち撮影(クリックで原寸拡大)
Capture One Pro 5 ストレート現像

まだ肌寒く、しかし光は確実に春に向かっているその雰囲気がうまく再現されています。

LEICA S2 , SUMMARIT-S 70mm F2.5 ASPH. , F2.5 1/250 AWB ISO160 DNG, 手持ち撮影 (クリックで原寸拡大)
Capture One Pro 5 ストレート現像

少しピント位置が曖昧なのですが、煉瓦、ガラス等々、マテリアルの質感はよく再現されています。

 

 

LEICA S2 , SUMMARIT-S 70mm F2.5 ASPH. , F2.8 1/2000 AWB ISO160 DNG, 手持ち撮影(クリックで原寸拡大)
Capture One Pro 5 ストレート現像

ご覧のとおり本当に何の気無しに写した、何の変哲もないカットですが、よく現場が再現されています。AEでの撮影ですが、全般を通じて思うことですが非常に優秀な露出判断です。白く飛んでしまっているところは肉眼でも飛んでいるので問題ありません。これだけ画面内で輝度差がありつつも、締まるべきところは締まり、レンズの優秀さを感じます。後半の作例を通じてほぼ絞り開放の撮影ですが、ローパスレス&大きな撮像素子となると、どうしても解像感ばかりに目が向きがちなのですが、トーンの豊富さと、解像力の凄まじさのバランスによるメリハリから現場の空気感が再現されるのです。大きな撮像素子を搭載するカメラの最も大きなメリットではないでしょうか。

誤解を恐れずに言うならば「大きくなった35mmデジタル一眼レフ」・・・それがPENTAX645D。

実際の光景をレンズで捉え、撮像素子に結像させて符号化するのがデジタルカメラです。しかし現実の世界の光景は、光線にしても何にしてもすべて連続で連なっているものです。それらを符号化して映像にするためには、一体どの程度の量のデータを取りこみ、どの程度符号化して、最適化の上並べて映像とするか、つまりそのことで映像の質の根源が決まるといえるでしょう。理想を言えば、できる限り大きな撮像素子で、できる限りの深度(bit数)で階調を表現し、並びにアウトプットするのが望ましいと言えます。しかし、現実的にはカメラのボディのサイズ、データハンドリングの問題、アウトプットの問題と様々な制約があります。ページ上部で述べたとおり、フイルムに最適化されたカメラのシステムでは、いまのところ技術的な制約などで、そのシステムの範囲内であれば、感材を撮像素子に置き換える場合、システムのパッケージングそのものがボトルネックとなって、なかなか良い結果を得づらいと言えます。ライカS2は、撮像素子のサイズを中心に、新規に起こされたシステムであり、全ては当然最適化されています。よりよい画質を得るために、そして、作例の通り手持ちのスナップ撮影から、三脚にガッチリ据えたランドスケープ、果てはプロフェッショナルのスタジオワークなど全てに対応します。しかも35mmフルサイズデジタル一眼レフとさほど変わらない使い勝手とサイズで。さて、システムの使い勝手に対するインプレッションを若干まとめます。

まずファインダー。非常に明るく見やすい上に、ピントの山も掴みやすい、素晴らしいファインダーです。35mmより大きなフォーマットのため、ファインダー像自体も大きくなり、これも見えの良いファインダー像へ繋がっていると感じられます。シャッターの切れも良く、音も大きなミラーを持つわりには静かに感じられ、上品な音質であると言えるでしょう。操作系については、呆れるほどにシンプルであり、背面の液晶部分にボタンに割り当てられた機能が何であるのか、ボタン名すら無いシンプルさです。このあたりは少し使い慣れないと最初は何のボタンなのかすらわからない、といった状況です。あくまでルックスの良さを最優先したと思われます。ただ、使い慣れれば直ぐに身体が覚えるわけで大きな問題はないでしょう。このほかの解説については他媒体で色々と取り上げられていると思いますので割愛いたします。最後に、筆者は仕事での撮影にCONTAX645 & PHASEONEデジタルバックを利用しています。S2の価格についてですが、新規にデジタルに最適化されたシステムと専用レンズ、というパッケージングから得られるメリットを考えれば、むしろ割安なのではないかと感じます。プロユースに限らず、デジタルの画質に満足できず、フイルムとデジタルを行ったり来たりするユーザーの方も多々見受けられます。35mmのフラッグシップデジタルを何度も買い換えることを考えれば、デジタルカメラとして根源的な力を底上げされたS2は、一つの選択肢として一考の価値有り、とおすすめさせていただきます。

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